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文學界六月号 読んだので感想! 『コンビニ人間』とは

どうもです。
佐藤友哉中村文則、あとLGBTの評論に惹かれて文學界六月号を買って読んでみましたので、その感想です。あまり知らない作家ばかりで楽しめました!
個人的には『コンビニ人間』/村田沙耶香と『浮遊霊ブラジル』/津村記久子が大いに楽しめました。
ネタバレ含みます!

コンビニ人間』/ 村田沙耶香

周りの人から”正常ではない”とされてしまうような人物が主人公の物語。
私は、類型化された人生を生きること、そしてそれを肯定している物語だと感じました。

今の「私」を形成しているのはほとんど私のそばにいる人たちだ。
・・・
特に喋り方に関しては身近な人のものが伝染していて、今は泉さんと菅原さんをミックスさせたものが私の喋り方になっている。
 大抵のひとはそうなのではないかと、私は思っている。
・・・
こうして伝染し合いながら、私たちは人間であることを保ち続けているのだと思う。
(文學界六月号108ページより)

周りの人間に、他の人達からの影響を感じ取る主人公。しかし、彼女等は自分が周りから影響を受けていることに全く無自覚です。

それに対して主人公は意識的に彼女等の要素を吸収し、トレースします。なぜなら、そのようにトレースしなければ、主人公が「あちら側」と区別する”正常な世界の人間”を困らせてしまうから。

私はそんな生活には息苦しさを感じてしまうのではないかと思ってしまいますが、主人公はそう感じていません。
彼女は上手に「人間」ができていることに安堵しているのです。

しかし、この社会において”正常”になるためにはただの「人間」ではまだ足りません。
職についていなかったりすれば白い目で見られます。

そこで主人公が生きるのが「コンビニ人間」という人生。
このような誰にでも理解が可能な類型化された人生ならば奇異の目で見られることもありません。
恋愛をしたことがないという点で浮きそうになれば、主人公は「男と同棲する女」というわかりやすい役割を手に入れてしのぎます。


こうした類型化された人生を生きるというのは何も、”正常ではない”主人公のみが行っていることではなく、この社会で生きる人間全てが多かれ少なかれ無意識のうちに行っていることなのでしょう。
そして作者はこれを肯定的に描いているように感じました。

途中で一度コンビニ店員を辞めてしまう主人公ですが、最後には再び「コンビニ人間」を選択します。
そしてそんな彼女はとても幸せそうなのです。

『私の消滅』/ 中村文則

精神医学を題材にした面白いミステリ!
なかなか複雑な構成になっいて、最初は戸惑いましたが、先の読めない展開でぐいぐい引き込まれました。

とんでもなく壮絶な話になっていって恐ろしくもありますが、しかし面白いです。

「私の消滅」というタイトルも良い!


中村文則さんといえば『教団X』で有名ですが、著作は一冊も読んだことなんですよね。
今回『私の消滅』が読めて良かったです。
いずれ他の作品も読んでみたいなと思いました。

『離昇』/ 佐藤友哉

久しぶりにユヤタンこと佐藤友哉さんの小説を読んだけども、表面上はすごい普通な純文学ぽい。けど単純な”いいお話”には感じられないから不思議。

私はユヤタンの小説は「鏡家シリーズ」と「333のテッペン」しか読んでないのですが、それらの作品にあったような歪みというかぐちゃぐちゃした感じはあまりないです。


最終的にこの主人公は自分自身に収まりの良い物語を与えそれに寄りかかりますが、それに自覚的というところがなんともスッキリしないというか。

面白いのは間違いないんだけど、どんな物語なのかというと捉えどころがない。。。

それはそれとしてこの作家の文章がやっぱり好きだなーと思いました。

『浮遊霊ブラジル』/ 津村記久子

この4篇の中で一番好き。
「私の消滅」の直後に読んだからかもしれないけど、この優しさに満ち溢れている物語が読んでいて安心できるし、自分自身優しい気持ちになれます。

脱力しながら読み進め、そしてじんわり泣けてくるような余韻のあるラスト。

素晴らしい短編です!

『女性同性愛の文学史、あるいは「レズビアン」という不幸』/ 伊藤氏貴

女性同性愛の文学史という文言に惹かれて読んでみました。
とても勉強になる評論です。

女性同性愛に対する”抑圧”について書かれていました。

アニメ作品において、私自身は百合に”萌え”を感じることはありませんが、キャラクター性としては認識しています。

百合をキャラクター性にしているのって、まさにこの評論の言う「消費財化」にほかならないように思います。ということは私自身、女性同性愛を異常だと認識しているし、女性同性愛を抑圧することに加担しているのでは? なんて考えてしまいちょっとショックを受けてしまいました。これについてはもうちょっと考えてみよう。

この評論は連載中のようで、次回は結婚を題材にしたものみたいです。次号のも読みたいな―。

『味な小説』/ トミヤマユキコ

舞城王太郎の評論があるということで、買う前から楽しみにしていたのですが、なんと1ページ分しか無いモノでした。
なんてこった。

タイトル通り、食事という視点から色々な作家の作品について取り上げるという連載企画のようです。

書いてある内容は、特に食事からの作品分析だとかそういうわけではなくて、食事そのものの分析・紹介ですね。

タランティーノと『煙か土か食い物』が合うというような事が書いてありましたが、確かにあのノワール感溢れる小説には合うな―と思いました。

全体の感想

それぞれの作品に対する感想は以上です。

普段はあまり文芸誌は買わないんですが、今月の文學界は面白い短編・中編ばかりで楽しめました。
新たな作家を知ることが出来て良い収穫!