『貴族探偵対女探偵』/麻耶雄嵩 ネタバレ感想 女探偵が可哀想な短編集!
貴族探偵シリーズがドラマ化ということで、あわててシリーズ第二巻(最新刊)である『貴族探偵対女探偵』読みました。
貴族探偵と、今巻からの新キャラである女探偵・高徳愛香のダブル探偵が主役におかれ、いわゆる多重解決ものになってましたね。コメディよりの作風で楽しめました。
とはいえ、フェイクの解決に持っていくためのロジックにはなかなか苦しいものがあるなーと感じることもしばしば。ですが使用人や玉村依子といった主役以外のキャラもさらに描かれたりと、満足度の高い一冊でした。
個人的ベストは『なほあまりある』。
そんなわけで、以下ネタバレ含む感想です。
白きを見れば
いわくのある古井戸つきの山荘で殺人事件が……という話。
犯行を企んでいたのは実は被害者の方だったという逆転は鮮やか!
しかしなんだかやけに推理が入り組んでいるように感じられた短篇でした。
色に出でにけり
三人もの恋人を持つ玉村依子の別荘に恋人と家族が招かれて……という話。
なによりもまず、今巻の準レギュラーキャラである玉村依子のキャラクターが印象的。
設定や中妻による導入部分から受ける印象とはうってかわって、あっけらかんとはしているものの、キチンと恋人それぞれを大事にしている依子がなんだか可愛く思えてくる。
事件のほうも、愛香が指摘する犯人がまたしても……というところで今巻の構成がわかり、さらに名前そのものに動機が隠されていたというのもおもしろいです。
むべ山風を
大学の研究室で院生の一人が殺された。手がかりとなるのはティーカップで……という話。
工事による水道の計画的断水というものが、ミステリのなかに組み込まれているというのがまず新鮮。
推理のほうはこれまた入り組んでいて、フェイクの解決も真の解決もどちらも納得感が薄かったです。
弊もとりあえへず
山の中にある温泉宿で殺人事件が起こり……という話。
今巻の中では一番のサプライズが仕掛けられている短篇で、すっかり騙された!
愛香による犯人指摘のところで混乱し、読み返してみると非常に巧妙かつ慎重に描写されているなぁというところ。
さすが麻耶雄嵩という感じですが、この短篇はどうやってドラマ化するんでしょうね……。
ミステリとしては、この短編集の中で一番好きな短篇でした。
なほあまりある
謎の人物に、離島の別荘に招かれた愛香だが、そこには依子や貴族探偵もいて……という話。
唯一の書き下ろし短篇ですが、これまでの連作短篇をふまえた手堅い展開と結末で、とても満足のできる締め方でした。
最後の、脱力感すら感じられるコメディなオチが最高。
事件の方も、派手さこそありませんが、きっちりロジカルな推理がなされ、おもしろかったです。